ネットでは、写真のボケを活かした表現に関する記事が多い。しかし、ボカさない表現も大切だ。いわゆるパンフォーカスという手法だ(パンフォーカス - Wikipedia)。画面の中の全てにピントを合わせることで、広がりのある絵作りをすることができる。
撮影するとき、レンズの絞り(F値)によってピントの合っている範囲(被写界深度)を変えることができる。これによってボケを活かした表現からパンフォーカスまで変えることができる。
ところでパンフォーカスとは実際にどのあたりまでピントが合っているのだろうか?詳しく書いてみようと思う。
被写界深度とは何か?
「ピントが合う」という言葉は実は曖昧に使われている。厳密にピントがぴったり合っているのは一か所だけだ。でも、ディスプレイの解像度や人間の目の限界から実用上は多少ピントが合っていなくても、人間の目では識別できない領域がある。
下の図でレンズから距離s離れたものにピントがあったとすると、この距離から出た光はカメラの撮像素子上で一点に集まる。しかし、sよりレンズに近かったり遠かったりする場所から出た光は、撮像素子上でボヤーっと円形に広がる。この円の半径が一定値以下の場合は人間の目にはピントが合っているように見える。これを許容錯乱円と言う。
このようにある程度のボヤーっとした広がりを認めると、ピントの丁度あった点の前後にピントの合った(と人間には見える)範囲が生まれる。この範囲を被写界深度と呼ぶ。
パンフォーカスで撮影する実践的なテクニック
詳しいことは後で述べるが、被写界深度には次の性質がある。
- ピントがぴったり合う場所(s)が遠いほど、ピントの合う範囲(被写界深度)は広がる。
- 後方被写界深度(Df)は前方被写界深度(Dn)より数倍大きい
- ピントがぴったり合う場所(s)がある程度大きくなると、後方被写界深度(Df)は無限大になる
- F値が大きいほど、ピントの合う範囲(被写界深度)は広がる
この性質からパンフォーカスで写すときは、次のように操作する。オートフォーカスよりも、マニュアルフォーカスの方がやりやすい。
- F値を適当に絞る。
- 画面に入れたい被写体の一番手前の物にぎりぎり合うようピントを持っていく。
- 一番後ろの被写体にピントが合っているか確認する、合っていなければ後ろに下がって距離を取るか、F値を大きくする。
被写界深度の計算
さて、ここからは簡単な算数の話をする。使う記号は以下の通り。
- :ピントが丁度ぴったり合うレンズとの距離
- :被写界深度のレンズに近い側の長さ
- :被写界深度のレンズから遠い側の長さ
- :撮像素子上でのボヤーっと広がったボケの半径
- :焦点距離
- :レンズのF値
被写界深度は次のように書ける。
ここで式の形より次の2点に注意して欲しい。(1) が成立する、(2)のときは無限大となる。
次に上式を使ってグラフを書いてみる。まずは次のようになる。ただし、f=38mm, = 3/1000 mmとしている。
一方 は次のようになる。
4つのことに注意して欲しい。
- 被写体との距離sが大きくなるほど、ピントの合っている範囲が広がること
- はよりも数倍大きいこと
- はsが大きくなるほど急激に大きくなること(F=11の場合s=38mでDfはほぼ無限大となる)
- F値が大きいほどピントの合っている範囲は広いこと
まとめ
パンフォーカスは画面全部にピントを合わせる写真表現である。
厳密な意味でピントが合う距離は一つだけれど、人間の目では見わけがつかないという意味で、ピントの合う範囲は広がりを持つ。この範囲は、被写体との距離が大きいほど広がり、ある一定距離で無限大になる。