記憶と記録

見えたことは事実ではなく自分というフィルタを通した記憶であり、さらに記憶は記録で上書きされる。写真とカメラ関係のブログです。

被写界深度の不思議、望遠レンズでも被写界深度は変わらない

はじめに

 先日、被写界深度について計算方法をまとめました。

delight.hatenablog.com

 

 カメラは被写体にピントを合わせると被写体と異なる距離の物はボケて写ります。ただし、距離の差が小さいとボケの量も小さく、人間の目にはそれと分かりません。これを被写界深度と呼びます。

 

 一方、望遠レンズを使うと良くボケるという話があります。そこで、レンズの焦点距離と被写界深度の関係を定量的に示そうと思います。

 結果から先に述べると、レンズの焦点距離が変わっても被写界深度は殆ど変わりません。

 

 

写りの大きさを同じに

 広角レンズを望遠レンズに変えて(つまり焦点距離を長くして)写真を撮ると、被写体が大きく写ります。被写界深度を比較する際の条件として、写真に写る被写体の大きさが変わらないよう撮影することとします。つまり、焦点距離の大きいレンズほど被写体から離れて撮影することを考えます。

 例えば、35mmフルサイズの撮像素子(大きさは36mm×24mm)を考えます。身長160cmの人間を撮像素子上いっぱいの24mmの大きさに写すと、縮尺比 r = 0.015(=24/1600)と呼ぶことにします。そして、縮尺比rが一定になるよう、レンズの焦点距離に合わせて被写体との距離を調整することにします。

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 ここで焦点距離と被写体との距離の関係を整理します。下の青の三角形と緑の三角形は相似だから、 r=\frac{t}{s}となります。

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ここで、sはカメラと被写体の距離、fはレンズの焦点距離, tはレンズと撮像面(撮像素子)との距離、Pはレンズの主点(中心点)です。

 

被写界深度の計算

 上記のエントリで示したように、以下のガウスの結像公式が成立します。これを縮小率rを使って変形すると、sをfとrで表すことができます。

 \displaystyle \frac{1}{s}+\frac{1}{t}=\frac{1}{f}

 \displaystyle s=\frac{1+r}{r} f

 

 前方被写界深度Dnと後方被写界深度Dfは以下の式で計算できます。ただし、FはレンズのF値、δは許容錯乱円の直径です。

 \displaystyle D_n=\frac{\delta F(s-f)^2}{f^2+\delta F(s-f)}

 \displaystyle D_f=\frac{\delta F(s-f)^2}{f^2-\delta F(s-f)}

 

 上の式を使って縮尺比を変えて被写界深度 D=D_n+D_fのグラフを書いたのが以下です。ただし、F値2.8,δは3/1000ミリメートルとしています。

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縮尺比による被写界深度の変化

 

 縮尺比が小さい所(r<0.003)、すなわち被写体とカメラとの距離が遠いとき、被写界深度が急激に大きくなることが分かります。また、縮尺比のごく小さいところ(r<0.002)では焦点距離に対する被写界深度に差がありますが、それ以外では被写界深度に差が無いことが分かります。

 焦点距離による被写界深度の差を詳しく見るため、焦点距離 100mmと14mmでの被写界深度の比(被写界深度(f=100mm)/被写界深度(f=14mm))、同40mmと14mmの比、同100mmと40mmの比をグラフにしました。 

 

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縮尺比による被写界深度の比の変化

 

数値データも以下に示す。

縮尺比 r 40mm/14mm 100mm/14mm 100mm/40mm
0.001 0.67 0.64 0.96
0.002 0.92 0.91 0.99
0.003 0.96 0.96 1.00

 

縮尺比rが0.002よりも大きいと被写界深度の比は0.9を超え、被写界深度はほぼ同じであることが分かります。

 

縮尺比0.002の意味するもの

 縮尺比がごく小さい(r<0.002)なら、望遠レンズの方が広角よりも被写界深度が狭いと言えます。では、縮尺比0.002とはどういうことでしょうか?撮像素子のサイズ別に考えていきます。

フルサイズの場合

 人間の身長を160cmとした場合、縮尺比0.002のとき、撮像素子上には3.2mmの高さにその像は写ります。

 フルサイズの素子サイズは36mm×24mmでですから、横位置で写す場合、写真の短辺の1/8(≒3.2/24)のサイズで人間が写ります。

 絵にすると以下のような構図。これよりもアップで撮る場合にはレンズの焦点距離を変えても被写界深度は変わりません。

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APS-Cの場合

 APS-Cの素子サイズは23.6mm×15.8mmですら、横位置で写す場合、写真の短辺の1/5(≒3.2/15.8)のサイズで人間が写ります。

 絵にすると以下のような構図。これよりもアップで撮る場合にはレンズの焦点距離を変えても被写界深度は変わりません。

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マイクロフォーサーズの場合

 マイクロフォーサーズの素子サイズは17.3mm×13.8mmです、横位置で写す場合、写真の短辺の1/4(≒3.2/13.8)のサイズで人間が写ることになる。

 絵にすると以下のような構図。これよりもアップで撮る場合にはレンズの焦点距離を変えても被写界深度は変わりません。

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1/2.3サイズの場合

 コンパクトデジタルカメラに使われることの多い1/2.3サイズでも考えます。1/2.3の素子サイズは6.2mm×4.3mmです、横位置で写す場合、写真の短辺の74%(≒3.2/4.3)のサイズで人間が写ります。

 絵にすると以下のような構図。これよりもアップで撮る場合にはレンズの焦点距離を変えても被写界深度は変わりません。

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まとめ

 レンズの焦点距離と被写界深度の関係を調べました。写真に写ったときの被写体の大きさを変えないという条件では、焦点距離は被写界深度に影響しないことが分かりました。不思議ですね。

 ただしこれは焦点距離がボケの量に影響しないと言っているわけではありません。これについては別エントリで書きます。