色彩を極める (ナショナル ジオグラフィック プロの撮り方)
- 作者: ブライアン・ピーターソン,スサナ・ハイデ・シェルンベルク,ナショナルジオグラフィック,関利枝子
- 出版社/メーカー: 日経ナショナルジオグラフィック社
- 発売日: 2017/10/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
ナショナルジオグラフィックのプロの撮り方シリーズ「色彩を極める」は、日本人カメラマンこそ必要としている本だ。
あなたがこれまで撮った写真を見返して欲しい。写真を撮るとき、色には殆ど注意を払っていない筈だ。スナップの被写体を探しながら散歩をするとき、色でなく形に反応して被写体を選んでいる人が圧倒的に多い。
日本人は、色彩感覚に乏しい。日本の街並みは白・黒・茶色が多く、海外と比べて圧倒的に地味だ。人々が来ている服も白・黒・茶色が多い。外国人がど派手にカラフルなファッションを好むのとは対照的だ。
色彩感覚は練習で身につく。日本で生活していると色彩に対して関心が低いため色彩感覚が育たず、写真を撮るときも色に注意を払わない。関心の殆どを被写体の形に向けている。ただ、これは慣れの問題だから、色彩に注意を払うようにすればいい。
色を「見出す」方法
物を視るという行為はとても複雑だ。視界に入る映像全てを認識しているわけではない。試しに、今日は黄色いものを探すと決めて外を歩いて欲しい。多くの黄色い物体を発見する筈だ。
男性は、部屋や冷蔵庫の中のものを探すのが苦手と言われている。冷蔵庫の中のバターを探すとき、バターの箱ではなく「バター」という文字を探している。物を色や形ではなく「名詞」で認識しているためだ。
もしあなたが色に関心を払うことができれば、他人とは違った写真を撮ることができる。普通のカメラマンは「名詞」で被写体を探している。これに加えて「色」で被写体を探せれば、撮影の幅はぐっと広がる。
どうすれば、あちこちに潜む豊かな色を上手に探すことができるだろうか?
大切なのは、この世界を物すなわち「名詞」の集まりとしてみるのではなく、線、質感、形、立体感、パターン、色の集まりとしてみることだ
上の黄色いジャケットの黒人の写真を見て欲しい。黒人・帽子・サングラス・安藤忠雄の様に「名詞」にするのではなく、黄色とブルー、黄色と黄緑と茶色のように色に注意を払ってみる。すると、肌の茶色と植物の茶色、帽子の黄色とジャケットの黄色、ジーンズの青と文字の青のように、視点が広がる。「名詞」で世界を認識するのをやめよう。色を見よう。
色の可能性
カメラのカタログには、「シャープに映る」・「解像度が高い」・「歪みが少ない」という言葉がよく出る。なぜだろう?(10秒考えて欲しい)
どれも形を写すためだ。ポートレートで女性の髪の毛を写すとき、風景写真で山々の木々を写すとき、シャープに解像度高くゆがみ少なく撮れることが大切になる。
一方、色を写すとき形は重要ではない。色自体が主張するため形の力を借りなくても良い。上の写真も黄色のジャケットに視線が向かうと思う。それは色の力で、ジャケットの形が面白いわけではない。
普通の形をしていても色によっては被写体になり得る。下の写真はただのサンドイッチとサラダですが、色の配置を工夫している。手前のサラダの緑と、真ん中のケチャップの赤が補色となっていて、画面にインパクトを与えている。偶然ではなくケチャップの位置を調整して狙って撮ったものだ。
色を撮るテクニック
色を撮影するのは実は難しい。
形を撮るときは、レンズの歪を気を付ける。一方、色を撮影するときは、ホワイトバランス・光・露出の3つを気にする必要がある。
ホワイトバランスを自動設定にすると大抵は失敗する。ホワイトバランスの自動設定が苦手なケースとして、風景撮影で緑色の木々が一面に広がるシーンがよく知られている。同じように、色を狙った被写体は、カメラが苦手なシーンになりがちだ。自動設定に任せず手動での設定が大切だ。
光は、一様ではない。太陽の下、緑の壁際に立つモデルを撮影する場合、壁際の光は緑色だが反対側は白色になる。どちらに合わせて色を決めるか難しくなる。演出でなければ、一様な光を探すのが簡単だ。
色には明度と彩度がある。この両方を露出でコントロールする。二つのパラメータを一つのパラメータで制御するので、完全にはうまくいかない。狙った色にするにはRAW現像する必要があるかもしれない。
色の性質
赤と青を並べると、赤が前に出て見える。だから赤は進出色と呼ばれる。つまり、奥行きの表現を色でできる。
また、ビジュアルウエイトも色によって異なる。赤は重く、青は軽い。画面の左右に青色のものと赤色のものがあるとき、赤色が大きいとバランスが悪く見える。
さらに、ビジュアルウエイトは上下のバランスにも影響する。重い色が上に軽い色が下にある構図は、不安定な印象となる。逆に上に軽い色・下に重い色を配置すると安定した印象の写真となる。
まとめ
日本人、とりわけ男性は色に鈍感だと言われている。しかし、色を構図に使えると撮影の幅はぐっと広がる。引き出しが増える。
この「プロの撮り方 色彩を極める」は、色の性質、色の見つけ方、色の撮り方を教えてくれる。色については、普段、意識しないだけに、本書の様に網羅的にまとまっていると助かる。
同じシリーズの「構図の法則」も良い本だったが、こちらも参考になる本だった。