記憶と記録

見えたことは事実ではなく自分というフィルタを通した記憶であり、さらに記憶は記録で上書きされる。写真とカメラ関係のブログです。

「いい写真」はどうすれば撮れるのか?(中西祐介):初級者から抜け出て一段上に上がりたい人の本

  写真の本を読んだ感想です。

「いい写真」はどうすれば撮れるのか? ~プロが機材やテクニック以前に考えること

「いい写真」はどうすれば撮れるのか? ~プロが機材やテクニック以前に考えること

 

 これは、自分だけのオリジナルでクリエイティブな写真を撮りたい人にお勧めの本。

 

 言われた通り写真を撮るのは初級者、オリジナリティを加えてからが中級者と私は思います。今は、写真の撮り方や良い被写体の情報が溢れています。“日本の絶景ポイント”“桜の名所10選”“こんな時はこう撮れ”、こういった情報には事欠きません。ネットサービスPASHADELICは、撮影場所と撮影時期・撮影パラメータを提供していて、それに従えば誰でも同じ写真を撮ることができます。そうやって人真似で撮った写真は素晴らしいクオリティですが、見ている人には刺さりません。だって、既に見たことのある写真ですから。

 

 一方で、中級者にステップアップするための本や情報は殆ど見当たりません。世の中の本や情報は3種類に分けられます。(1)レシピ本(こういう被写体はこう撮れと撮影パラメータや構図を示した本)、(2)理論本(色彩論や心理学をベースに、写真が見る人に与える印象を示した本)、(3)精神論本(”被写体と向き合え”的な抽象的な精神論がが書かれた本)(具体例は文末を見てください)。(1)の本をたくさん読んでも初級者より上には上がれない。中級者になるためには(3)の本が必要ですが、これは中身が抽象的で良く分からない。

 

 本書は、「表現」するための考え方について具体的に書いており、この考え方を身につけることは自分だけの「表現」を工夫につながります。

 

 例えば、スポーツを撮るとき、「かっこ良く」撮ることを目指すでしょう(かっこ良さ以外にも勝者の「喜び」、敗者の「悔しさ」を撮ることも可能ですが)。では「かっこ良さ」とは何でしょう?「かっこ良さ」をブレークダウンすると「躍動感」「スピード感」「力強さ」になりそうです。では「躍動感」とは何でしょう?これをブレークダウンすると、ジャンプの「高さ」だったり、ボールの「飛距離」になりそうです。このように考えると、スポーツを撮るとは例えば「高さ」を撮ることだと気づきます。「高さ」を撮るなら、撮影テクニックとしてはローアングルで煽ることで「高さ」を強調できます。後は、「高さ」を感じるシーンを探せば良いことになります。

 オリジナリティとは、スポーツで「高さ」を撮るのか「力強さ」を撮るのかといった、何を撮るのかの選択です。また漠然とスポーツを撮るのと「高さ」を撮るのとでは写真の出来栄えが違ってきます。「高さ」を撮ると意識できれば断然尖った写真になります。

 

 本書では、「かっこ良さ」の他に「きれい」「かわいい」「おいしい」などを例にそれは何に分解できて、分解したものをどう撮るかについて示しています。これを読んで考え方のコツをつかめば、様々な被写体に応用できます。

 

まとめ

  本書は、オリジナルでクリエイティブな写真を撮るための考え方の本です。所謂レシピ本でも精神論本でもなく、このような本は珍しい。クリエイティブな写真を撮るためには”被写体と向き合う“などと抽象論は多いですが、良く分からないものが多い*1

 初級者が中級者にステップアップするには絶好の本です。

 

付録

 他の写真の撮り方について読んだ本を紹介しておきます。

 

 レシピ本の代表は、スコット・ケルビーの「デジタルフォト達人への道」シリーズです。例えば、人物を取るなら焦点距離85㎜から100㎜のレンズで絞りF11で撮る。モデルの顔をアップにするときはモデルの目を三分割構図で撮る。このように撮影レシピがバッチリとこの本に書いています。私は、今でもたまに読み返して、基本レシピを確認しています。クッキングで例えると定番料理の作り方みたいな本です。

デジタルフォト達人への道 1

デジタルフォト達人への道 1

  • 作者: スコット・ケルビー,Scott Kelby,早川廣行
  • 出版社/メーカー: ピアソン桐原
  • 発売日: 2011/10/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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  技術本の代表は、「プロの撮り方 構図の基本」でしょう。遠近感を強調する構図や、写真のバランスの取れた構図の考え方、写真を見る人の視線を誘導する方法など、理論的なことがしっかり書かれています。私が何度も何度も繰り返し読んだ本です。

プロの撮り方 構図の法則

プロの撮り方 構図の法則

  • 作者: リチャード・ガーベイ=ウィリアムズ
  • 出版社/メーカー: 日経ナショナル ジオグラフィック社
  • 発売日: 2017/08/22
  • メディア: Kindle版
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  精神論本は、あまり役に立ったことがないのですが、例えば、森山大道さんの「路上スナップのススメ」には、何か勢いのある言葉がいっぱい載っていて、モチベーションは上がります。

歩け、とにかく歩け。それから、中途半端なコンセプトなどいったん捨てて、なんでもかんでも、そのとき気になったっモノを躊躇なくすべて撮れ

 一方で、「異界」と言われても、分からなくてちょっと困ったりします。

「ほとんどの人は日常しか撮ってないでしょう。つまり、基本的に異界に入り込んでいない。でも、街はいたるところが異界だからさ。街をスナップするってことは、その異界を撮るっていうことなんだよ。」

森山大道 路上スナップのススメ (光文社新書)

森山大道 路上スナップのススメ (光文社新書)

 

 

 

*1:この本を読むと”被写体と向き合う“とはどういうことか分かります。スポーツならば「かっこよさ」とは何かを考えることです