記憶と記録

見えたことは事実ではなく自分というフィルタを通した記憶であり、さらに記憶は記録で上書きされる。写真とカメラ関係のブログです。

世界は私で溢れている

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 私が受験生の時、劇的に偏差値を上げた勉強法がある。それは、受けた模擬試験を繰り返し解くことである。実際、夏の模擬試験の問題を受験本番までに私は5回解いた。そういうわけで、大人になってからは厳選した本を繰り返し読むことにしている。

 

 正月休みに、これまで読んで面白かった本を読み返した。その中の一つが、「たのしい写真―よい子のための写真教室」。著者はホンマタカシ。

 写真のうまくなる方法は、人の写真を見ることだ。ただ漫然と眺めるだけでは得るものはない。見る方法を知っていることが大切だ。この本からは、そのための知識を得ることができる。

 

 今回読んだ中で、面白く感じたのは以下の3点。

  • 私の小さなストーリー
  • 写真を成立させるもの→真似をするということ
  • 写真家の個性は被写体で分かる

 

私の小さなストーリー

 音楽のインタビューで、「フォークソングからユーミンへ」という言葉を聞いたことがある。フォークソングの時代は歌のテーマが、古い慣習への反抗・貧困下での努力などの社会問題が歌のメッセージだった。ところがユーミンは、私の恋、私の彼、私の別れなどの「私個人」をメッセージに歌った。(ちなみに、これを聞いて、ラップも同じだと私は思った。アメリカでラップミュージックが出たころは、社会的最下層に閉じ込められた人々の問題、ドラッグ、暴力、犯罪などがテーマだった。今の日本のラップは常に「オレ(私個人)」だ。)

 写真も同様に、社会課題をテーマにした写真(例えば、ロバートキャパの戦場写真)から、私をテーマにした写真(例えば、荒木経惟「センチメンタルな旅」)に広がった。センチメンタルな旅

 

 こういう話を知ると、スマートフォンでみんながカメラを持っている時代は、私的、つまり小さな物語的写真で溢れていると思えるようになる。人の数だけ私的なテーマは存在するため、他人から共感を得ることが至上命題になってきたのかもしれない。

 スモールストーリは共感なしには意義を持ち得ない。オンリーワンを主張する人ほど、他者からの承認を求めようとするのに似ている。

 

写真を成立させるもの→真似をするということ

 誰かの写真を真似する方法には、

  • レベル1:同じ被写体を同じ構図で撮る
  • レベル2:写真の成立要件を抽出し、同じ要件で撮る

この二つがある。

 レベル2の例は、まったく関係のない二つのものを関係あるかのように撮るやり方。言葉での説明は難しいので、本書のワークショップ編を読むとよい。

 

写真家の個性は被写体で分かる

 写真家の撮る被写体には、驚くほどバリエーションがない。それが、なぜなのかは分からないけれど。

 ストリート写真であっても、選ぶ被写体は偏る。

 

まとめ

 正月休みに、この本を読み返した。分からなかったことが分かるようになっていて、うれしい。特に”小さなストーリー”は、写真を見るときのツールになりそうだ。