記憶と記録

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オリンパスOM-D E-M1Xのコンセプトが尖っている

 Olympusが新製品 OM-D E-M1Xを発表しました。今後のオリンパスのカメラ事業の行く末を占う戦略商品です。それだけによく考えられた製品コンセプトだと思う部分と、台所事情が苦しいのだと感じる部分があります。

 カメラ業界は、今激動の真っただ中で各社生き残りの戦略に知恵を絞っています。

 インスタグラムなどのSNSのおかげで写真を撮るユーザは増えました。一方、スマートフォンのカメラの進化でデジタルカメラが売れなくなっています。さらに技術の進歩により、一眼レフからミラーレスカメラにカメラの仕組みが変わってきています。このように、カメラ業界は大激変の時期に来ており、そんな中でオリンパスが新しいカメラを発表したのですから、そこにはオリンパスからマーケットへのメッセージがあります。

 私は、昨年オリンパスのカメラで5千枚近くの写真を撮ってきました。そんなオリンパスマニアから見たOM-D E-M1Xを語ってみたいと思います。

delight.hatenablog.com

 

カメラを取り巻く環境

 まず、カメラ市場の観点から。現在、インスタグラムなどの画像SNSのおかげで、写真を撮るユーザ数は非常に増えています。一方で、スマートフォンのカメラの性能がどんどん上がってきており、デジタルカメラが売れなくなっています。要するに、写真を撮るのはスマホのカメラでいいじゃん、という風潮になっています。

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「当社ではカメラはこの数年間、(販売台数が)年10%前後のペースで落ちている。(一眼レフとミラーレスを合わせた)レンズ交換式のカメラの世界市場は1000万台近辺だが減少傾向だ。ミラーレスの製品が伸びているが、あくまで一眼レフとの置き換えだ。市場全体でみると上乗せにはなっていない」 「普通の人はススマートフォン(スマホ)で撮るようになる。デジカメ市場は2年ぐらい落ち続けるが、プロや(上級者の)ハイアマチュアが使うものが500万~600万台ほどある。究極的にはそこで底を打つだろう」 

 

 また今はカメラの構造も変わる時期にきています。一眼レフカメラからミラーレスに変化しており、特にキヤノンとニコンがフルサイズミラーレスカメラ(CANNON EOS R, NIKON Z7/Z6)を発売したことでこの流れは決定的になりました。

 

 このようにカメラの市場規模が縮む中でカメラメーカ各社は売り上げを競い、その武器として新しいミラーレスカメラに命運をかけています。

 

オリンパスのカメラの特長

 各カメラメーカーの各社がミラーレスカメラには、その撮像素子の大きさに特色があります。一番大きなフルサイズ、その次に大きいAPS-C、そして一番小さなフォサーズ。各社の撮像素子は以下。

  • ソニー、ニコン、キヤノン:フルサイズ
  • 富士フィルム:APS-C
  • パナソニック:マイクロフォーサーズからフルサイズに戦略変更
  • オリンパス:マイクロフォーサーズ

 最近は、フルサイズのミラーレスカメラが人気で、撮像素子の小さなマイクロフォーサーズのカメラには逆風が吹いてます。事実、パナソニックは方針転換しました。

 こんな中、逆風の吹いているマイクロフォーサーズカメラを推しているオリンパスはどうするのだろうと、世間は心配していました。ここ一年ほど、オリンパスからは新製品も出ていませんでしたし、またオリンパスのカメラ事業自体が赤字で、カメラ事業自体が撤退かといううわさも流れました。

 こんな逆風の中でオリンパスが満を持して繰り出した新製品がOMD-EM1Xです。

 

OM-D E-M1Xとはどんなカメラか

 OM-D E-M1Xはプロ用の大きなカメラです。

  マイクロフォーサーズカメラというのは、原理的にカメラを小さくできます。それなのに、敢えて大きいカメラとしてOMD-EM1Xをオリンパスは出してきました。賛否両論あるでしょうが、私はここにオリンパスのメッセージを感じます。

 OM-D E-M1Xは、プロ用のカメラとして、堅牢で防塵防滴もばっちり。バッテリが二つ入り、撮影コマ数2580枚!(富士フィルムのカメラが350枚程度ですから滅茶苦茶ハイスペックです)。

 オリンパスお得意の手振れ補正は7.5段分。シャッター速度4秒でも手持ちで撮影できます(1/50秒のシャッター速度のブレと同じ程度に補正できるということ)。これも無茶苦茶な性能です。

 手振れ補正は動画撮影にも活躍し、動画カメラとしても優れたカメラに仕上っています。例えば、Cinema4Kが撮れ、Logで保存できます。

 静止画を高精細にするハイレゾショットは、これまで三脚使用が前提でしたが、今回からは手持ち撮影でもハイレゾショットできるようになりました。

 オートフォーカスは、もちろん顔認識・瞳認識に対応します。

 

 つまり、OMD-EM1Xとは、ミラーレスカメラの弱点と言われていた撮影枚数の少なさを劇的に改善し、オリンパスの強みである手振れ補正とハイレゾショットを強化したカメラです。

 

それでOM-D E-M1Xってどうなのか?

 このカメラが売れるかどうかは、発売してみないと何とも言えません(当たり前ですが)。

 ただ、オリンパスがマイクロフォーサーズの強みである小型化を犠牲にし、敢えてボディを大型化してプロ向けに出してきたことは、大いなる決断だと思います(小型の女子カメラとして新製品を出すこともできた筈)。上のキヤノンの御手洗さんのコメントであるように、プロとハイアマチュア向けに製品を出さなければ生き残っていけないことを真正面から捉え、勝負しにきたということですから。

「普通の人はススマートフォン(スマホ)で撮るようになる。デジカメ市場は2年ぐらい落ち続けるが、プロや(上級者の)ハイアマチュアが使うものが500万~600万台ほどある。究極的にはそこで底を打つだろう」

 

 プロ向けの市場で、フルサイズカメラと戦うためにオリンパスが作ったコンセプトは

  • カメラの大きさ・重さは本体だけではなく、レンズ込みで考えるものであり、レンズの大きくなるフルサイズカメラと、本体を大きくしても勝負できる(小型カメラの再定義)。
  • 撮像素子の大きなフルサイズカメラは高感度ノイズが少ないが、解像度ではオリンパスはこれに勝る(ハイレゾショット)
  • 撮像素子の大きなフルサイズカメラは、バッテリを食う。マイクロフォーサーズならではの撮影コマ数2580枚は、ユーザベネフィットがある。
  • オリンパスご自慢の手振れ補正機能では、どこのメーカーにも負けない。

 

 これらのことを、機動性という一つの言葉にまとめたコンセプトメイキングは、見事です。

 

私はOM-D E-M1Xを買うか?

 私は買いません。なぜなら私はプロではありませんから。ただ、OM-D E-M1Xが示したコンセプトは好きです。具体的には

  • マイクロフォーサーズのレンズは小さく軽い。そして軽いカメラほど持ち出す回数が増えます。重いフルサイズを使い切るアマチュアは少ないはずです。
  • フルサイズの画質は良いですが、明るい場所で写した写真の画質は、フルサイズもマイクフォーサーズも区別できません。同じです。そして、画質が一番求められるポートレートは明るい場所で撮影します(フラッシュや照明を使いますよね?)
  • アマチュアカメラマンの写真の失敗は大抵手振れであり、手振れ補正機能が強力なカメラは、強い味方です。

 

 OM-D E-M1Xから堅牢性と防塵防滴がなくなれば、私は買います。私は、プロではないのでそういった部分は省略したカメラが欲しい。ラインナップ的にはOM-D EM5くらいが欲しい。

 

まとめ

 オリンパスが新しいカメラOM-D E-M1Xを発表した。マイクフォーサーズらしからぬ大きなカメラです。オリンパスはレンズを含めた全体でみればコンパクトでしょう?と市場に問いかけています。そのうえで、手振れ補正の強力さ、ハイレゾショットの進化、動画機能で、OMD-EM1Xの価値を市場に問うています。

 これが売れるかどうかはだれにも分かりません。ただ、考え抜かれたコンセプトだと私は思います。

 

補足:なぜ画像処理エンジンを新しくしなかったか?

 O-MD E-M1Xの画像処理エンジンは、O-MD EM1 Mark2やO-MD EM10 Mark3と同じTruePic VIIIを使っています。ただし、TruePic VIIIを2個積んでいます。なぜ、新しい画像処理エンジン(TruePic IX)を新規開発しなかったのでしょうか?

 ミラーレスカメラは、一眼レフカメラと比べてデジタル処理が多い。特に、AFのレスポンスや正確さは画像処理エンジンの処理性能で決まります。画像処理エンジンは半導体で、ムーアの法則に従って半導体の処理性能はどんどん上がっています。ですから、画像処理エンジンは新しいものほど性能が良い。

 O-MD E-M1Xは、処理負荷が多いにも関わらず画像処理エンジンを新しくするのではなく、個数を増やすことで対処しています。これは、ソフトウエア開発を難しくします。二つの画像処理エンジンに均等に処理を割り振ることは、意外に難しい。例えば顔認識を考えれば、画面の左半分と右半分に分けて二つのエンジンで画像処理を分けたとしても、画面の左に顔が10個あれば片方のエンジンばかりが処理を続けることになる。これではAFの速度は向上しない。もっと洗練されたソフトウエアが必要になる。また、ソフトウエア開発だけでなく、熱対策の点でも不利になります。カメラの中で熱を一番出す部品は画像処理エンジンで、それを二つ積むのですから。

 

 新型の画像処理エンジンを開発すると、それを一番の上位機種にまず搭載し、順次下位機種にも搭載していきます。数が売れる下位機種にも上位と同じ画像処理エンジンを積むことで、画像処理エンジンの開発コストを回収するためです。オリンパスの場合、TruePic VIIIを下位機種のO-MD E-M10 Mark3に搭載しているのはそのためです。

 ですから、TruePic VIIIはすでに開発コストを回収する段階に来ている筈です。それなのに、E-M1XでTruePic VIIIを載せてきたのは、画像処理エンジンを重視していないためでしょう。

 O-MD E-M1Xのコンセプトを考えれば、ポートレイト撮影やスナップ撮影でのAFアシスト(特に顔認識、瞳認識)は重要ではありません。プロが使うカメラですから。重要な機能は、手持ちのハイレゾショットです。機動性のコンセプトからして、手持ちの機能を進化させる必要があります。手持ちハイレゾショットの画像処理は、複数枚の写真の位置合わせですから、複数の画像処理エンジンに処理を分けるのは容易です。

 

 つまり、O-MD E-M1Xが新型画像処理エンジンを積まなかったのは、必要が無かったからでしょう。もちろん新型エンジンを開発すればもっと違った機能を追加できたはずです。でも、それはO-MD E-M1Xのコンセプトではなかったということでしょう。

 

お題「カメラ」