写真集『浅田家』を読みました。面白かったです。
これは、いわゆる“面白写真”として楽しむだけではもったいない、深いメッセージが込められた一冊です。写真を撮る人にとって、身近な被写体への向き合い方やオリジナリティの発揮法を改めて考えさせられました。
写真集『浅田家』とは
概要
写真家・浅田政志さんによる家族写真をテーマとした写真集。
「一生に一枚しか撮れないなら身近なものを撮りたい」という学校課題をきっかけとした発想から、家族写真のシリーズがスタート。2009年刊行後、その温かな視点が高く評価され、第34回木村伊兵衛写真賞を受賞しました。
制作背景
浅田さんは写真専門学校時代、“一枚で自分を表現する”という卒業制作の課題に直面。何を撮るか考えた末、大切な家族を被写体にしようと決意しましたた。最初のシリーズは、母の勤める病院へ父と兄と浅田さんが治療に訪れた場面を再現したもので、これが写真集『浅田家』の原型となりました。
内容と特徴
- 家族全員でロケーション、衣装、ポーズ、シーンを相談しながら“記念写真”を演出
- 約1〜2時間で30〜40カットを撮影し、その中から最も自然に見える一枚を厳選
- 「本当にそういう家族がいるかもしれない」と感じさせる、演出とリアリティのバランス
- 年に一度、誕生日などをテーマに撮り続けるシリーズとして成長し、当初4人家族だったメンバーは現在9人に拡大
受賞歴
- 第34回木村伊兵衛写真賞(2009年)
選考委員からは以下の点が高く評価されました。
「家族というありふれたテーマを、あらためて“記念写真”という形式で提示し直した点に新鮮さを感じた」
「演出を施しながらも、写真が持つドキュメント性やリアリティを保っているバランス感覚が優れている」
映画化と関連展開
写真集『浅田家』および続編『アルバムのチカラ』を原案に、2020年10月公開の映画『浅田家!』が制作されました。二宮和也さん主演で、写真を通じて家族がつながる温かなストーリーが描かれています。
感想
写真集の構成に以下の特徴があると感じます。
- 写真集の中程に、スクリプトが配置されている
一般的な写真集は本文の前後にエッセイや対談を置きますが、本作は意図的に写真集の中程に配しています。 - スクリプトの前後で写真のテイストが変化する
スクリプト前はコスプレ風の演出が強く、後半は日常風の自然な家族写真へ変化します。 - サイズの小さな写真が2枚だけ挿入されている(厳密には「浅田家」の表札写真がこれらよりも小さなサイズで挿入されています)
撮影風景のスナップのように写されていて、構成の中でアクセントになっています。
全体的には、スナップ写真風なのに、作りこんでいる点が、ユニークだと思いました。
また、約1〜2時間で30〜40カットを撮影したようですが、カメラマン本人も写るセルフポートレートであることを考えると、カメラと立ち位置を何度も往復したはずで、ものすごい手間のかかっている写真です。 さらに、撮影時期を考えると、これらの写真はフィルムで撮られている可能性が高く、撮影現場で写りを確認できない状況でセルフポートレートを撮るのはかなりの技術が必要です。
スクリプトの中で私の好きなものを記しておきます。
以下は、家族それぞれの人柄がよく感じられる部分です。
Q14 入れ墨について。
父:理解できる
母:金、時間、痛みをかけた自己表現
兄:アイデンティティだと思うが、
人に迷惑や不快感を与えないようにした方がいいと思う。弟:入っていても入ってなくてもそんなに変わらないと思う。
以下の「自ら記念を作っていく」メッセージがとても好きです。この言葉が、まさに本作の核心をついていると思います。
ぼくの写真は記念写真です。
けれど、いわゆる普通の記念写真とは少し違います。普通は、どこかに出かけたらメインの場所でパチリ。みんなでたまたま集まったら並んでパチリ。それはそれでもちろん良い。写真だなって思う。
でも浅田家の記念写真は、みんなで休みを合わせて、場所を借りたり、服を決めたり、シーンをみんなで考えたりして写真を撮ります。それは自ら記念を作っていく記念写真です。
おすすめポイント
- 身近な被写体への向き合い方を見つめ直せる
- スナップと演出のバランスによる新しい家族写真の可能性
- オリジナリティのある写真を撮るためのヒント
写真を撮るすべての人にとって、日常の中に潜むドラマを自ら演出し、記念を作り出すヒントが詰まった一冊です。ぜひ手に取ってご覧ください。

