記憶と記録

見えたことは事実ではなく自分というフィルタを通した記憶であり、さらに記憶は記録で上書きされる。写真とカメラ関係のブログです。

内田ユキオ写真展「青い影」を見て、写真とは特別な被写体を探すことではないと知る

 内田ユキオ写真展「青い影」を見に行きました。

imagingplaza.fujifilm.com

 

 「青い影」と言えば、イギリスのロックバンド プロコルハルムの曲が有名で、写真展のタイトルはこれに由来しているんじゃないかと勝手に思っている。そもそも「青」は、富士フィルムの新しいカメラX-Pro3に追加されたフィルムシミュレーションのクラシッククロームから来ているのだろうと、こちらも勝手に思う(クラシッククロームのEVFを初めて覗いたとき、”わぁ青い”と僕は思った)。

 

 写真展の会場に入ると、入口に内田さんが座っていてびっくりしました。「内田さんほどのBig nameでも在廊するんですね」と声を掛けてみると、色々丁寧に話をしてくれました。

 

 写真展や美術展を見る時のマイルールは、一番好きなものを一つ選ぶこと。たくさんの写真を前にすると、集中力を持って観ることが難しいもので、このルールを心がけると断然集中して作品*1を見ることができます。

 

 私の一番は、高い所から海に飛び込もうとする赤いシャツを着た少年の写真。眼下には海に浮かんだ女子たちが少年に注目している。ブレていて女子たちの表情はクリアではないが、高い所から飛ぶ少年の冒険に期待している様子が目に浮かびます。青い海と赤いシャツの色の対比も美しい。

 内田さんに、「僕の一番は赤いシャツの少年が海に飛び込む写真です」と伝えたところ、撮影した時の状況を話してくれました。海に浮かぶ女子たちが少年に 「Hey Chicken! お前はどうせ飛べやしないだろう」と煽って、少年が飛ぼうとしているところだそうです。映画「バックトゥザフューチャー」を思い出すエピソードです(映画の主人公の高校生マーティ・マクフライは、学校のいじめっ子たちに"Chicken"と言われるたびにキレていて、これが過去へのタイムトリップにつながります。)。

 

 さて、この写真展の写真はどれも特別なものは何も写っていません。被写体はありきたりな物ばかりで、それなのに自分がこれらの写真に惹かれることが不思議です。特別な被写体を探さなくても、美しいものはいつもの場所にあるということでしょう。

 The real voyage of discovery consists not in seeking new landscapes, but in having new eyes.(発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目を持つことなのだ。)

         (Marcel Proust)

*1:ところで”作品”に対応する英語は"Work"ですが、どうも"作品"という言葉には質が高いものという意味合いがありそうで、"Work"の方が好きな言葉です。だって"作例"なんて、”作品”が質の良さを含意するところを「いやーそれほどでもないんです、ただの例ですから」的なへりくだりが透けて見えて、面倒なんですよね。