記憶と記録

見えたことは事実ではなく自分というフィルタを通した記憶であり、さらに記憶は記録で上書きされる。写真とカメラ関係のブログです。

木村伊兵衛回顧展で色々考えた

 木村伊兵衛回顧展に行った。面白かった。色々考えるヒントの多い写真展だ。

 

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 木村伊兵衛を知ってるかい?1901年生まれで1974年没の写真家だ。この生きていた時代がとても重要で、これについては後で触れるね。

 

 さて、この写真展の楽しみ方はいくつかある。

  1. 写真の”映え”を楽しむ
  2. 1900年前半という時代における写真を楽しむ
  3. 木村伊兵衛の撮影技術を楽しむ
  4. 写真を歴史資料として楽しむ

 

 写真の"映え"を楽しむのは簡単だ。展示されている写真の中で、一番好きなもの、お金を払って買っても良いものを選ぶ気持ちで見ればよい。

 代表作は、上のパンフレットにも乗っている「おばこ」。目の表情が美しい。肌の質感もきれいだ。ポートレートとして上手に撮れている。

 

 次に、1900年前半という時代を考えてみよう。

 乾板写真が発明されたのが1871年、最初の写真用フィルム コダックNo1が発売されたのが1888年。最初のカメラは大きく重くて携帯できるものではなかったこともあり、この頃の写真は、絵画の模倣を志向していた。これが、携帯できる小型カメラ(例えば、ライカ)の登場で、スナップ写真を撮れるようになった。つまり、瞬間を切り取るようになった。つまり、木村伊兵衛が(絵画のようにポーズを決めた人物を撮るのではなくスナップとして)リアリズムを志向したのは、当時の最先端であった。わかりやすく言えば、「何気ない日常の一瞬を切り取る」というテーマは、木村伊兵衛や土門拳が切り開いた世界だ。

 

 木村伊兵衛の撮影技術はどうだろう?

 当時(1900年代前半)のフィルムのISO感度はたった20しかない、もちろんオートフォーカスも無ければ、露出計も無い。そんな貧弱なカメラ機材で撮ったことを思うと、奇跡のような写真ばかりだ。

 例えば、上のパンフレットの左上の写真を見ると、直射日光の当たっている部分と影の部分の両方が写っている。このシーンにおいて、ダイナミックレンジの狭い当時のフィルムで白とび黒つぶれさせずに撮っていることに驚く。

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当時のISO感度は20(日本写真学会誌*1より)

 

 歴史資料として写真を眺めるのも楽しい。

 木村伊兵衛の活躍した時期は、第一次世界大戦(1914‐1918)、世界恐慌(1929-1930)、第2次世界大戦(1939-1945)と重なり、日本が大きく変化した時期である。日本が豊かになり、都市化が進み、世界恐慌とい極度の不況、これを打破するための戦争と日本のナショナリズムの強化、敗戦、復興など、大きく社会が変わった。この変化をリアリズムの視点で記録しているのだから、その歴史資料としての価値は高い。

 

まとめ

 木村伊兵衛回顧展を観てきた。この写真展は4つの楽しみ方があり、興味深い。

  1. 写真の”映え”を楽しむ
  2. 1900年前半という時代における写真を楽しむ
  3. 木村伊兵衛の撮影技術を楽しむ
  4. 写真を歴史資料として楽しむ

 

追記

 下は木村伊兵衛の言葉、リアリズムのスナップを撮る人らしい。リアルは待ってくれない、常に観察し続け、いつでも撮れる準備をしていたことを感じさせる。

プロからアマチュアに至るまで多くの崇敬を集めるこのスナップの達人中の達人に、どうしたらうまく写真が撮れるのか聞いたところ、『いつでもカメラを手から離さずにいる事が大事だ』と答えたとされる。

(木村伊兵衛 - Wikipedia より)