記憶と記録

見えたことは事実ではなく自分というフィルタを通した記憶であり、さらに記憶は記録で上書きされる。写真とカメラ関係のブログです。

『ユージン・スミス写真集』の感想:先入観を排して真実に迫ろうとしたフォトエッセイの先駆者

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 写真を撮る人なら皆知っているであろうユージンスミス。恥ずかしながら、今頃、彼の写真集を読みました。

 表紙は、有名な「The Walk to Paradise Garden」(楽園への歩み)の一枚。

 

ユージンスミスとは

報道写真家であった彼の特徴をまとめます。

基本情報

- 本名:William Eugene Smith
- 生年月日:1918年12月30日
- 出身地:アメリカ合衆国カンザス州ウィチタ
- 死没:1978年10月15日(59歳)

 

代表作とテーマ

  • 『楽園への道』(The Walk to Paradise Garden)
     1946年発表。戦後療養中の妻子と歩く田園風景を逆光で撮影し、大きな反響を得た。
  • 水俣病ドキュメント(MINAMATA)
    1971年~1974年、熊本県水俣市で水俣病患者を撮影。
    企業責任を告発する写真群は世界的な環境問題意識の高まりに寄与した。

 

写真技法の特徴

 フォト・エッセイの先駆者。 一連の写真で物語を語る「フォト・エッセイ」形式を確立( 代表作は、「Country Doctor」「Spanish Village」「Nurse Midwife」など)。 写真だけでなく、キャプションや文章との連携で深い物語性を生み出した。
  暗室作業への異常なこだわりがあり、自らプリント作業を行い、1枚のネガから100枚以上焼いてようやく1枚を選ぶこともあった。 明暗のコントラスト(ハイコントラスト)を強調し、象徴的な画面構成を作り出した。
 被写体の意図を強調するために大胆なトリミングを多用し、また 多重露光や重ね焼きで、視覚的な象徴性を高めた。

 

スタイルと美学

  • 「真実」への執着
    • 人は、先入観を排することはできないと考えていた。客観という言葉は使うべきでないと考えていた。
    • 「Let Truth Be the Prejudice(偏見が真実に近づきますように)」という信条を掲げた。
  •  被写体への共感と没入
    • 撮影対象と長期間生活を共にし、内側からその世界を捉えようとした。

 

感想

 報道写真として、情報の過不足の無い上手な写真だと思いました。

 一方で、無味乾燥な記録写真ではなく、一枚の写真で伝えたいこと(意図)の明確な写真です。

 さらに、例えば「ピッツバーグ」の節を見ると、肉体労働者の写真、ホットドッグスタンド(安い食事)の写真、綺麗な服を着て双子を連れた夫婦、「DREAM」という看板など、様々な角度から撮ることで、ピッツバーグ全体を浮かび上がらせようとしたのだと思います。

 

付録

 写真集を読む際には、事前にいくつか決まり事を知っていると理解しやすいです。決まり事をまとめてみました。

  • 撮影・技術的知識
    • 絞り・シャッター速度・ISO の関係と画づくりへの影響
    • レンズ特性(焦点距離が画角や奥行感に与える効果)
    •  光と色温度(自然光/人工光、ホワイトバランス)
    •  フィルム現像またはデジタル現像/プリントプロセスの基礎
  • 美学・構図の知識
    • 三分割構図、対角線構図、シンメトリーなどの基本ルール
    •  光と影の描写(キアロスクーロ、リムライト〈縁光〉)
  • 色彩理論(補色対比、トーンの統一・差異)
  • 写真史・文化的文脈
    • 主要写真家や流派(ドキュメンタリー、ストリート、ファッションなど)
    • 制作年代と社会背景(戦後日本、60~70年代の欧米など)
    • 撮影地や被写体の歴史的・文化的意味
  • 写真集固有の編集・デザイン知識
    • シークエンス(見開きの写真配置や並び順が語る物語性)
    • ページレイアウト(余白、図版サイズ、キャプション位置)
    • 紙質・装丁・印刷方式(マット紙/光沢紙、活版印刷など)
    • 前書き・エッセイの読み方(写真家の意図や評論のヒント)
  • 批評的視点・読み解き技術
    • ロラン・バルトの「ストゥディウム/プンクトゥム」像を使った鑑賞
    • 編集者・写真家の意図と「写真の選択」が持つ意味を考察
    • 自分自身の経験や感情と結びつけた読み解き